当院における分娩統計 2023.1
2000年(平成11年)11月の開院以来、2020年(令和2年)12月までの約20年間の間に8427名の赤ちゃんがお産まれになりました。
今回はこれを総括し見直し皆様にご報告させていただくとともに、私どもの今後の診療指標としても活用してゆきたいと考えております。
ご来院いただいた多くの患者様には、心より感謝申し上げるとともにお子様の健やかなる成長をスタッフ一同願っております。
1.初産婦と経産婦の比率(8427名)

総数8427名の出産のうち、初産婦さんは3964名(47%) 経産婦さんは4463名(53%)少し経産婦さんの方が多めでした。
前回も当院でお産をされているリピーターの方は972名(総数の23%、経産婦さんの49%)となりました。
その中には、当院で5名のお子さんすべてを出産された方もおられました。また、4回とも当院で帝王切開での出産をされた方もおられました。
このように、繰り返しお越しいただけることは誠にありがたいことで、お互いの関係も密になりスムーズなお産や育児スタートに寄与したものと思われます。
2.出生児の性別(8427名)

4348名(52%)が男児、4077名(48%)が女児でした。
昨年の全国統計をみても、男児:女児は52%:48%でしたので平均的割合といえると思います。
最近では、性別を産み分ける希望をされる方も増えていますし、環境因子やさまざまな要因が性別に影響を及ぼす可能性があるものと思われます。
3.分娩様式(8427名)

自然分娩(経膣分娩)で出産された方が6404名(76%)をしめています。骨盤位(逆子)や前回帝王切開分娩をされているなどの理由で帝王切開で出産された方989名(12%)でした。
微弱陣痛などのために胎児が出てこれない場合や胎児の状態が不安定なために分娩を急がないと危険なために吸引分娩を選択した方が1033名(12%)ありました。
2022年の1年間をみれば335件の分娩があり、その内自然分娩が224名67%、帝王切開が41名12%吸引分娩が70名21%でした。
無痛分娩の増加に伴って吸引分娩が増加する傾向にありますが、詳細は無痛分娩の項を御覧下さい。
4.帝王切開となった理由(989件)

帝王切開総数989件の内、前回帝王切開をうけておられる方が448件(46%)ともっとも多くを占めています。これには、後にお示しするVBAC(帝王切開後の経膣分娩)が不成功に終わった389件も含まれております。
次に多いのは、骨盤位(逆子)が262件(27%)を占めています。
その他、児頭骨盤不適合(骨盤が狭くお産が困難な場合)で219件(22%)、胎児機能不全(お産の際に赤ちゃんの状態が不安定になることです)での帝王切開が41件(4%)ありました。
最近では、出産に関しては安全性がもっとも重視されるあまりに帝王切開率が上昇しております。
VBACの適応が変わり、前回帝王切開の方は、次の出産時も帝王切開になる方が増えた為、当院でも帝王切開率は増えております。
手術の必要性を正確に判断することは非常に重要でありますし、その選択も時によっては一刻を争うような場合もございます。
そのような中でも、当院では妊娠分娩管理の充実により帝王切開率を少しでも下げれるよう努力して参りました。
今後も当院での重要課題のひとつとして取り組んでいきたいと考えております。
5.VBAC(帝王切開後の経膣分娩)(105名)

前回帝王切開で出産されていても、手術となった理由やその後の経過、また今回の妊娠の状況によっては経膣分娩が可能な場合があります。詳細は担当医にご確認ください。
当院では前回帝王切開で出産された方が429名おられ、その内105名(24%)の方がVBACをご希望になられました。しかし、ご希望通りに経膣分娩をされた方が68名(65%)で、残りの37名(35%)の方は帝王切開での出産となりました。
これらの方で異常のために帝王切開となった方は1名もおられませんでした。現在は、以前に当院で帝王切開を実施した経膣分娩の経験のある患者様のみに限定させて頂いております。ご了承くださいませ。
6.促進分娩の理由(2660例)

当院では、原則的に自然陣痛を待ってお産をしていただいております。
しかし必要があれば、母児の安全のためには陣痛促進を必要とする場合がございます。これまで、2660名(経膣分娩の内40%)に陣痛促進を行っております。その内訳は、陣痛が始まっているも微弱なためにお産が進行しない場合が887名(35%)と最も多く、次いで、分娩予定日を過ぎても陣痛が始まらず、出産が妊娠42週を超える可能性がある場合が710名(27%)、破水後にもかかわらず陣痛がおこらない場合が317名(12%)となっております。
その他、計画的無痛分娩での陣痛促進を591例(22%)行いました。
以前と比較して、無痛分娩の為の陣痛促進が増加しております。
一部には必要性が重複した例もございましたが、主な理由にかぎり報告させていただきます。
7.無痛分娩について
当院ではこれまでに無痛分娩1112例の実績がございます。
この際行う硬膜外麻酔は帝王切開時にも基本的には全例に行っており、985例の実績となっておりますが、幸いにも麻酔に伴う副作用は発生しておりません。このような経験を踏まえ、2011年より計画的無痛分娩に取り組んでいます。
この計画無痛分娩の開始以来1023例の方が出産されました。当初は分娩総数の7%に過ぎませんでしたが、2021年度は163例(49%)、2022年度は173例(59%)となっています。
2019年より、自然陣痛の発来を待って無痛分娩を行う待機無痛分娩も始めました。
2022年度待機無痛をご希望された方は15名(無痛分娩中9%)でした。
また陣痛開始後に急遽ご希望により無痛分娩を行った緊急無痛分娩も2022年度3名(無痛分娩中2%)おられました。
計画無痛分娩では分娩促進の前日に入院して翌日に分娩誘発を行っています。
しかし2020年では入院後、分娩誘発に2日以上かかった方が初産婦さんで14名(28%)、経産婦さんで3名(8%)おられました。
その内初産婦さんの半数が一時退院となり、入院期間が長くなる方がおられました。
そこで2021年度から初産婦さんが入院する時期を以前の38~39週から40週以降に遅らせたました。
2022年度は初産婦さんで分娩誘発に2日以上かかった方は7名(9%)、一時退院となった方は2名(3%)と2020年度より減少しスムーズに分娩に至る方が増加しました。
陣痛や破水で予定より前に入院となった方が全体で36%、初産婦さんで56%、経産婦さんで28%おられ、初産婦さん経産婦さんとも3名ずつの方が無痛分娩を行うことが出来ませんでした。
待機無痛分娩でも初産婦さん2名が分娩経過が早く無痛を行うことが出来ませんでした。
無痛分娩では麻酔効果の為、陣痛やいきみ感が分かりにくくなったり力が入りにくくなったりすることがあります。
また陣痛そのものもと微弱となるこがあります。
これらのことから分娩が遷延(子宮口全開大より初産婦さんで2~3時間以上、経産婦さんで1~2時間以上かかること)したり30分以上進行せず吸引分娩を必要とすることがあります。
2022年度は無痛分娩全体のうち34%が吸引分娩となりました。吸引分娩率は初産婦さんで61%、経産婦さんでは14%でした。当院で無痛ではない場合の吸引分娩率は初産婦さんでは25%、経産婦さんで0%でした。
このように無痛を行うことで、吸引分娩が増加するということはご了承ください。
今後も入院時期、麻酔量の調整や子宮頚管拡張法の工夫などにより、デメリットを減らしていきたいと思います。
無痛分娩を行う上で最も重要なことは安全であるということです。
当院はJALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)にいち早く登録し情報開示に努めています。
昨年よりアキュロとういう硬膜外麻酔を行う部分を超音波で確認する装置を導入しました。
無痛分娩を安全に行うための指針を掲載しておりますので、別途ご覧くださいますようお願い申し上げます。
また、無痛分娩がよりご満足いただけるものとなるように、本年よりバースレビューいう患者様とスタッフによる分娩の振り返りを行っています。
これらの結果についても随時皆様にご報告してまいります。
当院では今後も皆様のご要望にお応えできるよう、お産の一つの選択肢と捉え、これからも取り組んでゆきたいと考えております。
詳細はホームページにも掲載されておりますのでご覧くださいますようお願い申し上げます。
R4年度の総括
R4年度の分娩総数は335件でした。
初産婦さん154件(46%)、経産婦さん181件(54%)でした。リピーターさん83件(総数の25%、経産婦の49%)でした。
分娩様式としては、帝王切開41件(12%)、吸引分娩70件(21%)でした。
帝王切開の理由としては、前回帝王切開14件(37%)、骨盤位9件(22%)、胎児機能不全5件(12%)、
児頭骨盤不適合9件(22%)、その他筋腫合併等件(7%)でした。
吸引分娩の理由としては、胎児機能不全30件(43%)、児頭下降不良15件(21%)、腹圧不全25件(36%)でした。
吸引分娩自体の割合は前年と同様ですが、無痛分娩の増加に伴い、吸引分娩が増加する傾向にあります。
詳細は無痛分娩項をご参照ください。
当院における立ち会い分娩について(2023.1)

里帰り出産やご都合などにより、ご家族の立ち会いをされない方もおられますが、多くのご家族様が立会い分娩をされています。
また、当院では帝王切開時の立ち会いも可能です。ご家族の支えのもと、力を合わせてご出産いただけることは、 誠に喜ばしいことでございます。
育児をともに頑張る上でも、立ち会い分娩は意味があるかと思います。
しかし、R2年から続く新型コロナウィルス感染拡大の為、R4年1月27日~3月21日、7月25日~10月23日まで
立会い分娩を制限をさせて頂きました。
今年度は立会い分娩が可能な期間での比率を出しております。
ご家族の方には48時間以内に抗原検査を受け、陰性確認し立会い分娩をして頂きました。
今後も状況を見ながら引き続き感染対策に努めてまいりますのでご協力の程宜しくお願い致します。
また、ご主人様に出産後臍帯切断をしていただく事も一般的になってきました。
皆様もご出産にあたり、是非ご検討下さい。
どうぞ宜しくお願いいたします。
硬膜外麻酔を用いた無痛分娩についての評価 2023.1月
2012.5月よりPCA装置(麻酔薬の注入に用いる機械)を導入し、無痛分娩と帝王切開術後鎮痛に用いてきました。
また、患者様にはアンケート形式で御意見をいただき、スタッフによる効果判定やPCA装置の利用状況などを加えて評価いたしましたのでご報告申し上げます。
以前より硬膜外麻酔による無痛分娩をおこなって参りましたが、2011年6月よりは計画的無痛分娩にも積極的に取り組んできました。そんな中、2019年は125件、2020年は128件、2021年は163件、2022年は173件の無痛分娩を行いました。
そのうち昨年1月から12月に行った症例中、患者様からのアンケートを回収できた132件とスタッフ評価表173件による評価結果をご報告させていただきます。
① 対象:2022.1月から2022.12月までに無痛分娩を行った症例
173例(全経膣分娩の59%):
初産婦さん72名(初産婦全体の55%)
経産婦さん101名(経産婦全体の62%)
ここ数年の推移を(表1)にお示しします。
ここ数年に比べ無痛分娩を希望される方が増加しており、新型コロナウィルスの流行による里帰り分娩、立ち会い分娩の減少が影響している可能性が考えられます。
1.緊急無痛分娩:3名(2%)
麻酔を予定していなかったものの、陣痛発来後に急遽無痛分娩を希望された場合や血圧上昇などの医学的適応で急遽無痛分娩となった場合を緊急無痛分娩と呼んでいます。
それ以外の170名(98%)の患者様は、妊娠中からの計画通り無痛分娩を行いました。
その中には、入院をあらかじめ決定して陣痛促進下に無痛分娩を行う計画的無痛分娩と陣痛がおこってから麻酔を開始する待機無痛分娩があります。
2.計画的無痛分娩:155名(90%)
計画的無痛分娩の場合、2020年度までは初産婦さん経産婦さん共に38~39週に入院していただき陣痛促進を行ってきました。
しかし初産婦さんでは2020年度は14名(28%)の方が2日以上陣痛促進を行い、その半数が一時退院となる等、入院が長くなる方が多くおられました。
そこで2021年度より初産婦さんに限り計画入院を40週以降を目安に子宮頸管の熱化を見ながらとしました。
その結果、昨年度は初産婦さんで2日以上かかった方は7名(9%)、そのうち一時退院となった方が2名(3%)となりました。
経産婦さんでも2日以上かかった方が7名(7%)、一時退院となった方が1名(1%)おられました。入院時期を遅らせたことで、計画的な陣痛促進計画的先立って陣痛が始まったり、破水により入院となった方(以下、計画前入院の方とします)が全体で64名(37%)初産婦さんは43名(56%)経産婦さんは21名(21%)おられました。このうち7名の方は分娩経過が早く麻酔のチューブを挿入する間がなかったりCOVID-19感染などで無痛分娩を実施することが出来ませんでした。また初産婦さん3名が胎児機能不全で緊急帝王切開になりました。無痛分娩が実施できた54名のうち子宮口開大の処置が必要だった方は4名(7%)のみでしたが、31名(57%)に陣痛促進が必要でした。
子宮口開大の処置が必要だった方は、計画的に入院された111名中100名(90%)でした。このうち、初産婦さんは33名中26名(78%)、経産婦さんは78名中74名(95%)でした。
子宮口開大の処置後に陣痛がおこりお産に至った方は6名(5%)おられました。その他計画入院のタイミングで陣痛発来・破水が起こり、自然に分娩に至った方が、初産婦さん1名(3%)、経産婦さんも1名(1%)おられました。
また陣痛促進前に麻酔を必要した方が28名(25%)おられ、初産婦さんでは7名(21%)、経産婦さんで21名(27%)でした。
計画的無痛分娩をご希望された方のうち、初産婦さん14名(17%)経産婦さん1名(1%)は胎児機能不全、児頭骨盤不均衡、胎位異常で帝王切開分娩に切り替わりました。これは一般的な帝王切開率と同等の数値です。
3.待機無痛分娩:11名(15%)
痛みが始まってから麻酔を行うため、十分な効果を得られるまでには時間が必要です。また、急激に痛みをとることは赤ちゃんにも負担がある場合がございますので少しずつ確認しながらお薬を追加していく必要があります。今年度より麻酔の使用量を調整した結果、スタッフの評価では、分娩進行が早く鎮痛効果が十分に得られなかった方はおられませんでした。しかし分娩進行が早く、麻酔のチューブを挿入することが出来なかった方が初産婦さんで2名おられました。
陣痛はおこったものの、初産婦さんの40%には微弱陣痛のため分娩促進剤が必要でした。うち2名の初産婦さんは予定日超過のために、1名の初産婦さんが妊娠高血圧症のため誘発分娩となりました。
誘発分娩となった方を除いて子宮頸管拡張の処置を必要する方はおらず、初産婦さんでも子宮口全開まで比較的スムーズに分娩が進んだ方が多い印象でした。
また、陣痛が来ている状態で硬膜外麻酔の処置を行うことが辛かったというご意見もありましたが、逆に痛みが和らぐことで麻酔の効果が実感できたとのご意見もありました。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
---|---|---|---|---|
初産婦 | 69(52%) | 98(67%) | 91(50%) | 92(42%) |
経産婦 | 43(48%) | 49(33%) | 92(50%) | 106(58%) |
総数 | 133 | 147 | 183 | 198 |
② 上記対象のうち、患者様よりアンケートが回収可能であった132名について、またスタッフ評価が可能であった173名についてご報告いたします。
無痛分娩を選択された理由について
お産、特に陣痛に対する不安を上げた方が大半でした。特に、経産婦さんは前回の出産が大変であったご経験や、他院で無痛分娩をご経験から選択されたかたが多かったです。
その他、産後の体力回復を期待してされた方、計画的な分娩ができることを挙げておられる方などがおられました。また、コロナの影響で立会い分娩が出来ない不安や周囲の勧めで選択された方もました。陣痛開始後に無痛を行った方は、お産に比較的時間がかかり、これ以上の痛みや経過に耐えられなくなり不安が生じたために選択された方でした。
患者様アンケートからみた痛みについての評価(132例)
昨年度より麻酔の量を変更しより効果的に痛みをとるようにしました。その結果有効であったと答えた方が125名(95%)でした。まったく痛みがなかったと感じた方が58名(44%)で一昨年度の20%から大幅に増加しました。すごく痛かったと答えた方は3名(4%)で一昨年の8%から半減しています。無回答の方が4名おられました。(グラフ1)

スタッフ評価表からみた痛みについての評価(173例)
有効であったと判断した例が170例(98%)で一昨年の92%、効果が充分でなかったと判断した例は3例(2%)で一昨年の8%から減少しました。さらに、ほとんど痛みがなくかなり有効であったと判断した例は115例(66%)と一昨年の44%から増加しています。(グラフ2)

以前は患者様アンケートの結果とスタッフの評価は少し異なっていました。つまり、スタッフが有効と判断していても、患者様はもっと痛みをとりたいと感じておられたということです。
しかし、最近はお産をするためにいかに陣痛が必要か、また吸引分娩を減らすために出産間近の陣痛やいきみ感が必要であることを皆様にご理解いただくようご説明させていただいております。また、麻酔がよりよく効くように量の調節を行いました。これにより、患者様の無痛に対する期待度とスタッフの評価した有効度が近づいてきたものと考えております。
また、自己調節鎮痛にあたり自分でボタンをおして薬を追加することが可能ですが、実際にはお薬が入る間隔や量は安全な範囲に調整されています。ですので、痛みが強くなるとボタンを押す回数が多くなり、実際にお薬が入る回数以上にボタンを押されることがあります。このような方は48名(28%)でした。
やはり陣痛が強まるにつれ麻酔薬の追加が必要ですが、それも痛みが強くなりはじめた際の一時的にすぎず、お薬が充分に足りてくるとまた落ち着いた状態になられる場合が大半です。
以前は最高では42回追加ボタンを押された方がおられましたが、昨年は5回以上追加された方は40名23%、2回以下の方は86名50%、一度も追加されなかった方は20名と一昨年に比べ追加回数が減少しています。(表2)昨年度より麻酔の量を変更した効果の表れと考えます。
2021年度 | 5回以上 | 3~4回 | 1~2回 | 0回 |
---|---|---|---|---|
初産婦 | 38 | 25 | 9 | 1 |
経産婦 | 31 | 33 | 24 | 1 |
全体を占める割合 | 42% | 36% | 20% | 1% |
2022年度 | 5回以上 | 3~4回 | 1~2回 | 0回 |
---|---|---|---|---|
初産婦 | 17 | 22 | 25 | 8 |
経産婦 | 23 | 25 | 41 | 12 |
全体を占める割合 | 23% | 27% | 38% | 12% |
無痛分娩を行うにあたっての問題点
スタッフ評価より下肢のしびれがまったくなかった方は56名(32%)でした。それ以外の方は軽度のしびれ感がありましたが、単独での歩行困難な方は12名(7%)でした。このような場合には、麻酔を一時中断したり減量して対応するとしびれ感が和らいできます。少ししびれるぐらいが効果は高いように思います。
しかし、やはり麻酔が強く効くと陣痛が来ているのがわかりにくかったり、お産の際のいきみ(力をいれてきばること)ができなくなることがあります。このような方が、3名(2%)のみおられました。
このため吸引分娩やお腹を押したりしてお産の手助けが必要となる方が初産婦さんで60%前後、経産婦さんでも15%前後いらっしゃいます。無痛分娩の吸引分娩率は自然の陣痛発来でも促進剤を使用した計画的な分娩でも大きな差はみられませんでした。
また、硬膜外麻酔に使用するチューブの挿入時の痛みが辛かったと答えた方が12名(10%)、誘発分娩に先立って行う子宮頸管の拡張が辛かったと答えた方が13名(11%)おられました。
お産をスムーズにすすめるためには必要なものではありますが、やはり痛みを伴う処置だと思います。硬膜外麻酔のチューブ挿入時の姿勢が辛かった方や、硬膜外麻酔チューブ挿入時の局所麻酔の注射痕の痛みで眠り辛かった方もおられました。
次回も出産される場合には無痛分娩を選択されますか?との質問には、114名98%が次回も無痛分娩を希望されるとの回答でした。
2名はしないとの回答でした。やはりご希望いただく限りは、充分に満足のいく結果が得られるようさらなる工夫をしてゆきたいと思います。
総括
以上のように、硬膜外麻酔は無痛分娩にはきわめて有効な方法です。当院ではこれまでに、無痛分娩で939例、帝王切開で945例の硬膜外麻酔を行っており、特に異常はおきておりません。
しかし麻酔や陣痛促進のために行う処置には、痛みなどの負担や経済的負担以外にも多少なりとも危険性を伴います。安全性を確保するため今後も努力してゆく必要があります。
具体的には、無痛分娩を安全に行うための指針を公表しておりますので御覧下さい。当院は以前よりJALA(無痛分娩関係学会団体連絡協議会)による施設認定を受けております。
また無痛分娩では麻酔効果の為、陣痛やいきみ感がわかりにくくなったり力が入りにくくなったりすることがあります。
陣痛そのものも微弱陣痛となることがあります。
これらのことから分娩第Ⅱ期が遷延(初産婦さんで2~3時間以上、経産婦さんで1~2時間以上かかること)したり、30分以上分娩が進行せず吸引分娩を併用することがあります。
昨年度は無痛分娩全体のうち34%が吸引となり昨年の33%からは横ばいとなっております。
吸引分娩率は初産婦さんで58%、経産婦さんでは16%でした。
当院で無痛分娩をしていない場合の吸引分娩率は全体で16%でしたので、それに比べると高率です。
しかし他施設の報告では、無痛分娩時の吸引分娩率は60%程度のところもあり、これと比較すると当院では低く抑えられているものと思われます。
これも前述したように、出産間近の陣痛やいきみ感が必要であることを皆様にご理解いただくように努めた結果かと思われます。
麻酔時の下肢のしびれ感のなかった方は、今回の報告では34%と横ばいでした。
更なる工夫により、これらの成績も改善できるように努めたいと思います。
そのためには、患者様が陣痛を自覚することができ、自分の力でお産ができる感覚を維持することが重要です。
つまり、無痛分娩でもそれなりの痛みを自覚する必要があるということです。
患者様の中には、無痛分娩はまったく痛みのないお産だと期待されている期待されている方もおられると思いますが、けしてそうではないのです。
陣痛を乗り切る一つの手段とお考えいただければ幸いです。
無痛分娩を希望される方の中には、計画的に出産を進めることに負担を感じておられる方もあり、2019年度より待機無痛分娩に取り組んだ来ました。また昨年度より計画無痛分娩では入院期間が長くなる傾向のある初産婦さんの入院を原則40週以降としました。また、従来、破水された方に対し、子宮頚管の拡張処置は行えなかったのですが、そのような方にも使用できるプロウペスという新しい薬も取り入れました。このような取り組みの結果、以前に比べ分娩がスムーズに進行する方が増えました。2021年度では、陣痛や破水で入院された方で麻酔が間に合わなかった方はおられませんでした。2022年度より、麻酔の使用量を少し増やすことで、鎮痛効果を高める取り組みを始めました。また、効果や副作用などを評価し、方針を決定していきたいと思います。 今後も様々な工夫を重ねながら、皆様のご希望にそった形でも無痛分娩の取り組みを開始したいと思います。詳細は担当医、スタッフにお聞き下さい。
理想的な無痛分娩とは、辛い痛みをとりながらご自分の力でお産が出来るものではないかと思います。しかし、痛みの感じ方や経過は様々です。 その皆様のご希望に添えるように工夫していくことも重要であると考えております。
最後に文献から見た無痛分娩における医学的メリット・デメリットをお示ししておきましょう。
メリット
- 高年初産や妊娠高血圧症候群などの、ハイリスク妊娠に有用。
- 赤ちゃんが産まれてから胎盤が出るまでの時間(分娩第3期)が短い。
- 外陰部の伸展効果のため、児頭下降や吸引分娩操作が容易である。
- 外陰部の麻酔効果により、産後の創部縫合などの処置がしやすい。
- 母体の体力が温存され、産後早期より赤ちゃんとかかわれる。
デメリット
- 麻酔薬や操作にともなう副作用に注意が必要。
- 吸引分娩率が高い。産道での児頭回旋異常率が高い。
- 微弱陣痛になりやすく、陣痛促進剤使用率が高い。また、分娩までの所要時間も延長する傾向にある。
自然分娩と違いを認めない点
- 緊急帝王切開となる率や分娩時の出血量には相違がない。
- 新生児に対する影響についても差はないとされている。
逆に、分娩時の痛みは胎児への酸素供給量を減少させるので効果的な無痛分娩は胎児にもメリットがある可能性もある。
以上のような結果をふまえ、無痛分娩の選択をご検討いただければと思います。
R4年度 当院におけるメンタルケアーの現状
1.妊娠初期(EPDS・育児支援チェックリスト)
妊娠初期はみなさんにエジンバラ産後うつ病尺度というテストを受けていただきますが、406名中24名(5.9%)が基準を上回る結果でした。
これらの多くは、悪阻症状によるものが多く、悪阻の軽快により不安は解消されました。
悪阻以外に原因が考えられる場合には、テストを再度行い受け持ちスタッフが担当し、より多くの機会にご相談いただけるようにしております。
ご希望により、臨床心理士による心理カウンセリングを実施しております。(予約制)
令和4年、受け持ちスタッフが対応した患者様は
心理カウンセリングは心療内科や他院でのカウンセリングを受けておられない方を対象に行っており、2名の方に受けていただきました。(0.4%)
2.産後2週間健診、1ヶ月健診(EPDS、赤ちゃんへの気持ち質問票、育児支援チェックリスト)
令和4年1月から12月の間で妊娠初期にテストを受けられた406名のうち、すでに分娩された方は171名、里帰りされた方は35名いらっしゃいます。
171名のうち産後2週間健診を受けられた人数は161名でそのうち5名(3.1%)、産後1か月健診は140名のうち4名(2.8%)の方が基準を上回る結果でした。
地域の保健師と連携をとり、支援を必要とされた方は17名(5.0%)おられました。
これからも細やかなメンタルケアを通して、皆様の安全・安心な出産、育児支援を行ってまいります。
皆様のご協力をお願い申し上げます。
当院における授乳状況について(2023.1)

母乳栄養について
・毎年、母乳栄養について、退院時、2週間健診時、一ヶ月健診時で確認を行っています。
・ここ数年、初産婦さんの母乳率は20~30%、経産婦さんの母乳率は40%前後で推移していましたが、人工乳の割合は増加傾向にあります。
・依然として母乳をあげたいと考える母親は多くいます。
しかし、コロナ渦の社会情勢、多様性の時代で母乳栄養だけにこだわる必要性はなく、混合授乳を希望する母親が多くなり、50~60%を占めているのが現状です。
・母乳の統計は、ここ数年で大きな変化がないため、今年度で一旦終了とさせて頂きます。
今後も皆様が納得できる授乳方法を一緒に選択し、サポートしていきます。
母乳トラブルの際には、地域の助産院と連携し対応していきます。
当院産後ケアの現状 (2023.01)
近年、育児を取り巻く環境は厳しくなっております。
当院では産後のサポート不足、リフレッシュ、育児技術の習得を目的とした当院独自の産後ケアサービスをH26.10月より実施しております。
社会のニーズも高まり、平成27年10月に大阪市が産後ケア事業に対する助成を開始し、次いで平成29年6月には豊中市、吹田市、平成31年には箕面市が助成を開始しました。
当院も各市の審査基準をクリアし認定施設として登録を受けております。
昨年当院で出産された336名のうち、42名(12.5%)の方が当院で産後ケアをご利用されています。
また、産後ケア利用者数計57名に対し当院分娩の方の割合は73.6%でした。
新型コロナウイルスの影響で、産後の里帰りや遠方からの家族サポートを予定通り受けることができず、不安の多い中育児をスタートせざるを得ない方が多くいらっしゃいました。
また当院に空室がないことでご利用をお断りしたケースは36件(当院分娩5件 他院分娩31件)ありました。
産後ケアのニーズが高まる中、受け入れが十分にできず申し訳ありませんでした。
現在対策として分娩予約を制限しており、より多くの方の産後ケアを利用していただきたいと考えています。
また受け入れに関しましては当院出産の方を優先させていただきたく存じます。
感染対策に関して皆様に手指消毒や検査のご協力頂くとともに、感染者数の増加に伴って受け入れを制限させていただく事がある事をご了承頂けますと幸いです。
利用者様のアンケートを踏まえ充実した産後ケアサービスをお届けできるよう努めるとともに、利用者様の提供できるサービスの形を再度検討し、皆様のニーズに沿ってまいりたいと思います。
利用者内訳

利用目的内訳

利用日数内訳

★医学雑誌、メディカ出版より発行されている、PERINATALCARE(ペリネイタル ケア)2019.2月号に、当院の産後ケアの取り組みが取り上げられました。
掲載ページの冊子がございますので、ご興味のある方は受付までお知らせください。